わたしは、今、洛陽という中国の内陸の田舎都市にいる。
仮の宿である部屋に盗盤がいっぱい置いてあり、日本の法が及ばない場所であるので、とりあえずみてみた。
洛陽は中国の古い古い都で、でも、今は、やたら呼吸器や皮膚病の診療所が街中に多くて、空には薄い朱土色の土ぼこりが飛び交い、いつもかすんでいて、石炭が燃えるニオイの漂う、乾燥した発展途上のアンバランスな都市である。今日、バス停で降りそこなって、道を歩いていたら、杭州にも2店舗ある銀泰という香港資本の百貨店の建築工事現場の前を通りがかった。
あそこに並ぶような商品を買えるような人が、いまの洛陽に何人いるのだろう?
さて、かのアニメを見たとき、初っ端から号泣。
妹とトトロを映画館で見たとき、トトロが木をでかくするとこで二人して意味なく号泣したという繊細な感性を持っているから、仕方ないかも知れないが、こんなカラカラな場所で、この季節に、あんなモノ見せられたらたまんない。
毎年、春分の後の大潮の日からお盆の前まで、年に何回かづつ磯にいっていた。
潮はまだ冷たいけど、潮溜まりは暖かいし、ボディボード用のスーツを着れば、一時間ぐらいは素潜りで遊んでいられる。
毎年いっているので、どこに何が隠れていて、潮がどこを通って、どこが深くなっていて、どこにビーチグラスがいっぱいたまっていて……とか、ほとんどそらでおぼえている。いまだって、こんなとこにいても、匂い付きで頭の中で再生できる。
カジメの間を小さなサメが泳いでいたり、メジナの群れが潮目から岩の隙間に逃げて来たり、水面すれすれをボラがたくさん泳いでいたり、ゴンズイ玉をみつけて逃げたり、いろんな軟体動物をつついたり……それでも、一番最後にいったときは、磯がずいぶん枯れていて、海藻も生き物もずいぶん少なくなっていて寂しかった。あの映画の最初の地引き網のシーンみたく、本当にゴミがいっぱい海底に沈んでいた。
珊瑚は無いけど、本州の太平洋側の磯だって、とても美しいものだ。
珊瑚礁と同じくらい遺伝子の多様性を確保していて、人間の生活に貢献している。
懐かしくて、豊かな、わたしの心のふるさとのひとつだ。
でも、わたしは、今、乾いた異郷の地にいる。
高校生の時は、行きたくて行きたくて、本当にもだえ苦しむほどだった。
でも、もう、「そういう中国が好き」なんて、嘘でも言えない。
花も、予備校の時には五月になる度に芍薬を描いていて、「牡丹という美しい花がこの世にあって、それはこの芍薬よりも、もっとゴージャスでいいものだ」と聞かされていたので、いつか本当に飽きるほど描きたくてたまらなくて、そして今、すこし飽きている。
日本では、芍薬は500円も出せば立派な切り花が買えるし、切り花のでも絵になるけど、牡丹は最低でも鉢植えだし、絵に描くなら、やはり地面に生えている木の方が、枝振りや花のつき方が面白い。
洛陽で牡丹を描くのは、武徳殿で剣道をしたり、甲子園で野球をしたりするくらい、すごいことだ。……疲れているからだと思う。日焼けして、手首から先が黒い手袋をはめてるみたいになった。
ひとりでテンションとモチベーションを維持するのって、今までは気が付かなかったけど、ものすごい特殊なことだ。早く寝て、明日も頑張ろう。